お知らせ
News個人診療所を第三者へ承継するときに必要な行政手続き|医院承継の流れと注意点
医院承継には、親子など親族間で引き継ぐケース、第三者の医師へ引き継ぐケース、また個人診療所の事業を医療法人へ引き継ぐケースなど、さまざまな形があります。
承継の形によって必要となる行政手続きは異なりますが、今回はその中でも、個人の医師が開設している診療所を別の個人医師が引き継ぐ「第三者承継」を中心にご紹介いたします。
第三者承継では、建物や医療機器、スタッフなどを引き継ぎ、同じ場所で診療を継続するケースが多く見られます。そのため、「今ある診療所を引き継ぐのであれば、行政手続きもそのまま引き継げるのではないか」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、個人の医師が開設している診療所を別の個人医師が承継する場合には、保健所への診療所の廃止・開設手続きをはじめ、保険医療機関の廃止・新規指定、公費負担医療に関する指定、施設基準の届出の再提出など、さまざまな行政手続きを行う必要があります。
今回は、実際に個人診療所から別の個人医師への第三者承継の手続きに携わらせていただいてきた経験を踏まえ、医院承継で必要となる主な行政手続きと、準備の際に気をつけていただきたい点についてお伝えいたします。
医院の第三者承継では行政手続きもそのまま引き継げるのか
医院承継においてまず押さえておいていただきたいのが、「診療所の営業権を承継すること」と「行政上の届出や指定がそのまま引き継がれること」は、別のものとして考える必要があるという点です。
個人医師が開設する診療所を別の個人医師が承継する場合、旧開設者については診療所の廃止手続きを行い、新しい開設者については診療所の開設手続きを行うことになります。届出のうえでは、旧診療所と新診療所は別の施設として扱われます。
保険医療機関の指定についても同様に、旧医療機関の廃止と新たな指定申請を行うこととなり、医療機関コードも変わります。
また、施設基準や、難病指定・結核指定などの公費負担医療に関する指定についても、それぞれ必要な手続きを進めていくことになります。
最初に旧診療所の届出・指定状況を整理する
医院承継の行政手続きを進めるにあたり、私が特に大切にしているのが、旧診療所の届出・指定状況を丁寧に確認することです。
新しい診療所についての申請書を作り始める前に、まずは旧診療所がこれまで各行政機関に対してどのような手続きを行ってきたのか、また、どのような指定を受けているのかを一つひとつ整理していきます。次のようなものが挙げられます。
- 保健所:開設届、変更届
- 厚生局:保険医療機関指定申請、変更届、施設基準届出
- 公費負担医療に関する指定:難病、結核、労災、身体障害、被爆者、生活保護
- 医療措置協定
まずは過去の届出書類や指定通知書を確認する
旧診療所に過去の届出書類の控えや指定通知書が保管されている場合は、それらが確認のための大切な資料となります。
診療所を長く運営されていると、開設時だけでなく、その後にもさまざまな変更届や施設基準の届出、指定申請が行われていることが少なくありません。まずは、手元にある過去の届出書類や指定通知書を落ち着いて整理していきます。
書類が見当たらない場合には、各行政機関のホームページを確認したり、直接窓口へ問い合わせしたりしながら、現在の届出・指定状況を一つずつ確認していきます。
医院承継で必要になる主な行政手続き
個人診療所を別の個人医師が承継する場合、実際に必要となる手続きは診療所の状況によって異なります。ここでは、代表的な手続きをご紹介いたします。
1.保健所 旧診療所の廃止と新診療所の開設
保健所に対しては、診療所そのものに関する手続きを行います。
個人から個人への第三者承継では、同じ場所・同じ建物で診療を続ける場合であっても、旧開設者による診療所の廃止と、新しい開設者による診療所の開設について、それぞれ手続きが必要になります。
承継予定日を踏まえたうえで、管轄する保健所に必要な手続きや提出時期を確認しながら進めていきます。
2.厚生局 保険医療機関の廃止と新たな指定申請
旧保険医療機関の廃止と、新しい医療機関についての新規指定申請を行います。 新たな保険医療機関の指定は、原則として指定申請を行った翌月1日となりますが、保険医療機関の廃止を伴う開設者変更など、一定の場合には指定日を遡ることができる「遡及指定」が認められています。
医院承継においては、承継日から保険診療を継続できるよう、保険医療機関の指定を含めてスケジュールを組んでいくことが大切です。
3.施設基準の届出
診療報酬に関する施設基準も、あわせて確認が必要な事項です。
旧診療所がどの施設基準を届け出ているのかを確認したうえで、新たに届出を行う施設基準についても検討していきます。
施設基準の届出状況については、厚生局が管内の医療機関ごとに情報を公開しています。 旧診療所に届出書の控えが残っている場合にはそちらをご確認いただくとともに、厚生局が公開している情報もあわせて活用し、現在の届出状況を確認しておかれるとよいかと思います。
4.公費負担医療に関する指定
公費負担医療にはいくつかの制度があり、旧診療所がどの指定を受けているかは診療所ごとに異なります。まずは旧診療所の指定状況を確認したうえで、承継後も必要となる指定を洗い出し、それぞれの所管行政機関に必要な手続きを確認していきます。
承継日から逆算してスケジュールを組む
必要な手続きを洗い出したら、次にそれぞれの手続きを承継日から逆算して整理していきます。 医院承継では、譲渡契約、建物や医療機器の引継ぎ、スタッフへの対応など、行政手続き以外にも多くの準備が並行して進んでいきます。
そのため、M&Aの契約上の承継日だけを先に決めてしまい、行政手続きを後から当てはめようとすると、スケジュールが合わなくなってしまう可能性があります。
特に注意しておきたいのが、保険医療機関の指定です。 保険診療を途切れさせないためには、診療所の開設手続きと保険医療機関の指定を、どのような日程で行うのかを早めに確認しておく必要があります。医院承継の具体的な日程が見えてきた段階で、保健所や厚生局などへの事前相談も含め、行政手続きのスケジュールを組んでおかれることをおすすめいたします。
2026年9月から変わる「遡及指定」の取扱い
医院承継の際に、特に注意していただきたいのが「遡及指定」の取扱いです。 厚生労働省は、遡及指定や機能移転について全国統一的な運用を進めるため取扱いを見直しており、2026年(令和8年)9月1日から新しい取扱いが始まります。
遡及指定の対象となる事例としては、保険医療機関等の開設者変更、所在地変更、個人から法人・法人から個人への開設者変更などが示されています。
遡及指定の手続きは、内容によって類型が分けられています。
開設者が亡くなった場合、至近距離への移転や所在地移転を伴わない開設者のみの変更で一定の要件を満たす場合には、基本的には訴求指定が認められるとされています。
その他の場合には、原則として遡及指定を希望する日の3か月前までに「予定届出書」を提出することとされています。
第三者承継では開設者変更が関係してまいりますので、承継日を検討される段階から、ご自身のケースがどの取扱いに該当するのかを確認しておかれることが重要です。
関連記事
「医院承継で知っておきたい「遡及指定」とは?2026年9月からの新しい取扱いを解説」
まとめ|医院承継は旧診療所の状況確認から始める
個人診療所を第三者へ承継する場合には、保健所への診療所の廃止・開設だけでなく、保険医療機関の指定、施設基準、公費負担医療に関する指定など、さまざまな行政手続きが関わってまいります。
必要な手続きは診療所ごとに同じとは限りません。医院承継の行政手続きにおいては、最初に旧診療所の届出・指定状況を確認することが何より重要だと考えています。
そのうえで、承継後も継続する診療や算定内容を確認し、必要となる手続きを洗い出したうえで、承継日から逆算してスケジュールを組んでいきます。
また、2026年9月からは、保険医療機関等の遡及指定について新しい取扱いが始まります。
医院承継を予定されている場合には、M&Aや事業承継のお話だけでなく、行政手続きについても早い段階から準備しておかれることをおすすめいたします。
行政書士 草深医療法務事務所では、医院承継に伴う行政手続きについて、旧診療所の届出・指定状況の整理からご相談をお受けしております。
「どの手続きが必要なのか分からない」「旧診療所が何を届け出ているのか分からない」という段階からでも、どうぞお気軽にご相談ください。